はじめに:再会の狼煙(のろし)
僕の人生の、良きスパイスであり、最高のエンターテイナーでもある、友人のバズさんという男がいます。 彼との友情は、「ストリートファイター4」という、一つのゲームの熱狂と共に始まり、そして、その熱狂が冷めると共に、一度は、少しだけ、距離ができていました。
そんな頃、僕はアウトドアという新しい世界に興味を持ち始めていました。画面の中での戦いもいいですが、たまには太陽の下で肉でも焼いてみたい。 そうだ、バズさんたちを、誘ってみよう。 僕は、再会の狼煙を上げるべく、一つの完璧な計画を立てました。道具も、食材も、何もいらない。「手ぶらでバーベキュー」。これなら、あの面倒くさがりのバズさんも、きっと来てくれるはずです。 そう、この時の僕は、まだ知らなかった。彼が、道具以上に、面倒な人間だということを…。
第一幕:立ちはだかる、木炭という名の壁
舞台は、東郷町にある愛知牧場。 僕と、バズさん、そしてもう一人の友人の三人は、全ての準備が整えられた、バーベキューサイトに腰を下ろしました。
目の前には、美味そうな肉と野菜。そして、コンロの中には、黒々と鎮座する炭の山。 そう、僕たちは、最後の、そして一番大事な関門を忘れていたのです。
「…これ、どうやって火をつけるんだろう?」
僕も友人も、顔を見合わせます。誰も知りませんでした。 まずい…。このままでは、肉を生でかじることになります。 僕が、「ちゃんと調べてくればよかった…」と後悔の念に苛まれ始めた、その時でした。 一人の男が、静かに立ち上がったのです。そう、バズさんです。
「じゃあ、俺が火起こしやるからね」
その、自信に満ち溢れた一言。 僕と友人は、「おお、すごいな」と、素直に感心しました。 そうだ。彼は、こういう時、頼りになる男だった…はずです。
第二幕:俺流・着火術
バズさんは、用意されたゼリー状の着火剤を手に取りました。 そして、僕たちが固唾をのんで見守る中、彼は、驚くべき行動に出たのです。
彼は、やおら、着火剤の袋を引きちぎり、中からピンク色のゼリー状の物体を絞り出しました。 そして、それを、まるでケーキにクリームを塗るかのように、一つ一つの炭に、丁寧に直塗りし始めたのです。
「へぇ~、そうやって火をつけるんだ」
僕の口から、思わず感心の声が漏れました。 しかし、彼はそんな僕の声を気にする様子もありません。 全ての炭にクリーム(着火剤)を塗り終えた彼は、満足げにライターで火をつけました。 ボッ!と一瞬、炎は燃え上がりました。しかし、ゼリーが燃え尽きると、炭は何事もなかったかのように、黒いまま沈黙しています。
「あれおかしいなぁ。これで火が付くと思ったんだけど…」
首をかしげる、バズさん。 彼の、輝かしい「俺流キャンプ」の歴史は、この自信満々の大失敗から、その幕を開けたのでした。
最終幕:逆ギレという名の、点火
結局、僕が受付まで走り、正しい火の付け方を聞きに行きました。 「着火剤は、袋のまま燃やしてくださいね」 あまりにもシンプルなその答えに、僕は膝から崩れ落ちそうになりました。
席に戻った僕は、その、あまりにも簡単な真実をバズさんに伝えました。 そして、ずっと疑問だったことを、彼に問いかけたのです。 「バズさん、やり方、間違ってるじゃん。なんで、袋を破って、ゼリーを直塗りしたの?」
すると、彼は少しムッとした顔で、僕にこう言い放ちました。
「だって知らなかったからしょうがないじゃん!」
見事な、逆ギレでした。 自分が知らなかったことを棚に上げ、なぜか指摘したこちらが悪いかのような、その態度。 あまりにも理不尽で、あまりにも子供じみたその言い訳に、僕は怒りを通り越して、もはや笑うしかありませんでした。 そうだ。これこそが、僕の、愛すべき親友、バズさんなのです。
その後、僕たちは無事に火を起こし、肉を焼き、パターゴルフを楽しみ、最高のアウトドア体験を満喫しました。 でも、僕の心に一番強く焼き付いたのは、肉の味ではありません。 彼の、あの、あまりにも清々しいほどの、逆ギレでした。
おしまい